October 28, 2012

オハナのロケットストーブ物語

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この場所に、1年半後、キッチンオハナというお店と、
その暖房システムの中枢になる「ロケットストーブ」が生まれることになるのですが。

誰もそれを信じない。
まだ、その面影もない時代。

自信や、経験があったわけではなく、
ただ「作りたい」という気持ちだけがあったように思うの。


長い記事ですが、これからロケットストーブを作りたい人のために、
今日は、『ロケットストーブが生まれるまで』の物語。

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初期の「オハナ予定地」です。

以前、床だった部分を、広く土間に抜きました。
太い根太(床を支える柱)を全部抜くので、大工さんと相談しながら、
壊していきます。


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【第1次工事】
ロケットストーブ本体は、ワーク形式で作りました。

日本でのロケットストーブの伝道師kekeさんと、
たくさんの人達が集まって、オハナのストーブを作りました。
⑤ ロケットストーブの製作


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U字溝を組み立てて作った、ロケットストーブの『ヒートライザー(上昇炉)』。

これが、ロケットストーブの本当の煙突。
煙突の性能は、「高さ×煙突内の温度」に比例します。

煙突が熱ければ、熱いほど、強く空気を吸い上げるの。
「煙突をストーブの中に入れちゃう」というのが、ロケットストーブ独特の発想なんですね。
*ロケットストーブの原理


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ドラム缶を切ったり、粘土を扱ったりも、
初めての経験でした。

人間、必要に迫られれば、何でも出来ます。


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「ロケットストーブ・プロトタイプ(原型)」。

あっという間に出来ちゃったけど、
それは、みんなのおかげ。

ひとりでやっていたら、もっと数百倍の時間がかかったと思う。


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直線6mの「配管」をつなげて、燃焼実験を重ねます。
どのくらいの排気力があるのか、チェックするの。

横に伸ばした配管に、粘土で『ヒートベンチ(暖まるベンチシート)』を作る計画です。


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【第2次工事】
配管をデザインしていきます。

配管には、亜鉛綱板製のスパイラルダクトを利用します。
ビルの空調などで使う一番安い素材。

水に弱いのですが、セメントで固めるから良いかという発想でした。


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メインの配管は、まっすぐ。
ベンチシートの中心部を温めます。
ペチカ式(ロシア)の暖房システムですね。

2本のバイパスは、床下に。
オンドル式(韓国)の床暖房システムです。
(② 蓄熱ユニットの設計)

あとで分かったことですが、このバイパスは4本じゃなかったらダメなの。
また、蓄熱ユニット内の配管は、リターン式ではなく、バイパス式を選んだけど、
一番理想だったのは、バイパス式を取り入れたリターン式。

両方使う発想というのが、この当時はなかったの。
あー、もう一回作りたい^^。


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並行して、壁も修復します。
外壁は、断熱材を仕込んだ「板張り」仕様。


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配管の下には、『スコリア』という富士山で産出する、
「溶岩性の黒い砂」を敷いてあります。

スコリアは、断熱性能に優れる素材で、
スコリア層10cmで、床への熱の放出を防ぐ計算です。
③ スコリアと配管


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ちなみに、ロケットストーブの燃焼では、配管内で結露しやすく、
その結露水(酸性)が配管をダメにするのが、ストーブの欠点のひとつになります。
⑦ ロケットストーブの欠点

配管のジョイント部分を密封し、
配管内に、耐熱塗料(黒)などで膜を作る対策が必要になるかもしれません。


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【第3次工事】
床に、セメントを20cmの厚さで敷き詰めました。
床部分の蓄熱層になります。


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【第4次工事】
ベンチシートの背もたれになる『壁』を作ります。
でも、その前に粘土を作らなくっちゃ。

粘土の材料は、オハナの土壁を壊した時にでた『壁土』。
それに泥コン屋さんで買ってきた『新しい粘土』と、
オハナの床下からでた『粘土層』を配合しました。

そこに、稲ワラ(餅米のワラ)を細かく刻んだものをいれて、
良く練り、泥のプールで1ヶ月以上、熟成させます。
④ 黄金の粘土



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壁の工事が始まりました。
泥を柱に確実にくっつけるため、縄を打ち付けています。


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良く練った泥土。
独特の匂いがするのは、良い粘土に育った証拠。


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柱に塗りつけて。


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園芸用の麻布をかぶせます。


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それを粘土で塗り込むという手法。


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これで、壁にもしっかり粘土がくっつくのね。

左官の施工は、長野県松本の「まつだ左官」さんが中心的存在でした。
土壁の仕事を専門にこなす、とても研究熱心で、プロ意識の高い方です。


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こんな感じになりました。
2週間くらい、乾くのを待ちます。


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【第5次工事】
いよいよベンチを作ります。
もらってきた間知石。


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これを、ベンチシートの飾りに、いくつか使います。


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積み上げて、モルタル(セメント)で固定。


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壁(背もたれ部分)が乾いたら、
ベンチシートの基礎を、「粘土」で作りました。

蓄熱性能の高い『鉄平石(てっぺいせき)』をベンチの中に練り込んでありますが、
石は、配管にダイレクトにくっついてる必要があります。


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ベンチ表面に、コテ跡を残して、
次の施工の粘土がくっつくように工夫してあります。

ロケットストーブを燃焼させながら、
1ヶ月くらいかけて、ベンチを乾かします。


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【第6次工事】
さらに壁を厚くします。

壁に縄を打ち付けて。


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壁に粘土を塗り込んでいきます。
縄も塗り込んじゃうから、頑丈な壁になるの。


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ベンチシートには、園芸用の布をかぶせて、
粒子の細かい「砂」を配合した、粘土を塗り込みます。

ひび割れを防ぐ、知恵なのね。


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少しずつ、ゴールが・・・

見えてるような、見えないような^^。


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【第7次工事】
煙突を縦に立ち上げ、壁に穴を開けて抜きます。
壁を通過する「ダクト」の、排気温度はマックスで70~80℃。

一応、火災予防に、メガネ石(白い断熱性能のある素材)をはめてあります。


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煙突は、そのまま軒を抜いて、上に。

ロケットストーブは、煙突の力を必要としないから、
そんなに高くなくて良いの。


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床の蓄熱層の上に、鉄平石を張っていきます。


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鉄平石は、諏訪で産出されるタイル状の石で、
石切場でゴミ扱いのアウトレットを、
2トントラック一台1000円でもらってきたもの。

今、値上がりして、2000円になったらしい。


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立ち上げた煙突の下を、レンガで固めます。


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煙突を断熱のウールで覆い、木材で枠を組みます。


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木製・2重煙突。
この古民家っぽい渋い色は、柿渋 + ベンガラ少々。


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木製2重煙突の中には、ダンパー(弁)がついていて、
出口で、空気の流れを調整出来るよう、工夫されています。

ダンパーを「排気マイナス40%」くらいまで、温風の流れを制限すると、
ロケットストーブの吸気を制限して、ゆっくり長く燃えるようにも出来るの。


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【第8次工事】

ロケットストーブ本体を改造します。
ロケットストーブから、壁までの距離は約40cm。

全開で燃やすと、壁の温度が100℃にも達します。
このままだと、炭化しちゃう。


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そこで目を付けたのが、レンガ。
断熱性能と、蓄熱性能の両方を兼ね備えた素敵な素材。


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積むという作業は、ひたすらの忍耐なのね。

まあ、話すと長くなるんだけど。
結構、大変だった。


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でも、それに見合うだけの仕事だと思う。

ロケットストーブ本体は、秩父の鍛鉄家・西田さんの作品。


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ストーブの上には、つがいの鳥。


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子供たちに大人気のリス(^^)。


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ほとんど気づいて貰えない、かたつむり(TT)。

まあ、良いか。


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【第9次工事】

ベンチシートに砂漆喰を塗っていきます。
砂が入ることで、割れにくく、強度が出ます。

もう、コンクリートとおんなじ。
お相撲さんが座っても、大丈夫なの。


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白く美しいベンチ。

十分に時間をかけて、乾燥させ、
最後の仕上げの準備に取りかかります。


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春には、「キッチンオハナ」が開店しました。


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【第10次工事】
いよいよ最終工事。
ベンチシートの仕上げは、昔の「おくどさん(かまど)」と、
おんなじ作り方をします。

仕上げに「ノロ」という、
生石灰に、ドロマイト。色粉(ベンガラや炭)を混ぜた素材を使います。


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それを左官屋さんが、熟練した技術で塗っていきます。

いやあ、良い色ですね。
カブいてますね。


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塗り終わりのベンチシート(赤)。
しかし、これからが本番。


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素手で磨くと、光沢が出るのね。
ただひたすら、こする。


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遠くから、こするためだけの来て下さる人もいて。


ロケットストーブが、オハナに実現出来たのは、僕の力じゃない。
たくさんの人の気持ちに支えられて、それは生まれたのだと、思うのです。


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ひたすら磨いて。
結局、夜までかかりました。


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まるでレザー(皮)のような、独特の風合い。

あー。また、レストランの存在感がレベルアップしちゃった。
これに負けない料理作るの、大変なんだもん。


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ひだまりのベンチシート。
来月の上旬には、本格的に、火を入れます。
それもまた、大変なんだけどね。

基本、困難が多いです。

こういう生き方しか出来ないみたい。
でも、それで良いと思う。

いつかここに座ったお客様が、にっこり楽しんでくれるなら、
一年半、頑張った僕の毎日も、「意味のあるもの」だったと思うの。


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この記事へのコメント

1. Posted by も。   October 28, 2012 09:31
「はい、こんにちは。
今日は、縁側でほっこりさせて
いただきましょうか。」

「あら、師匠、
ま、ま、一緒に生姜番茶でも…」

「若い方は、いいですわねぇ。」

「年寄は、高見の見物といきましょうか。」

「あら、番茶がなくなりましたわ!
パパさん、それが終わったら、
おかわりお願いしますね。」
2. Posted by papa   October 28, 2012 11:11
じゃあ、オハナでオフ会しましょうか^^。
3. Posted by 匿名希望の旭川市民   October 28, 2012 11:34
オフ会?

参加する~!

パパさん、交通費とか出してね
よろしく
4. Posted by ヤナジ   October 28, 2012 12:07
はじめまして、昨日はじめてお店へ伺いお昼ごはんを頂きました。美味しかった
ロケットストーブ素敵だなぁと思ってました。そしたらこんな物語があったなんて!

楽しく記事拝見させて頂きました^^

5. Posted by テクテク   October 28, 2012 19:25
はじめまして、私も↑の方に同じく、初めてお店に伺いました。素晴らしいおひさまプレートに感激し、遠くから行って良かったなぁと思いました。また季節を変えて伺いたいです!どれも丁寧に作られているお料理や、器、今回の長いロケットストーブの物語を読んでさらに感動です。美味しいお料理をありがとうございました!すでにみんながほっこり、にっこり楽しんでいる空間に見えました。
6. Posted by papa   October 29, 2012 08:15
姉さん、こんにちは。

>パパさん、交通費とか出してね

分かりました。
その代わり、夜行バスですからね。
7. Posted by なんでも屋   October 29, 2012 10:42
あー、素敵な色になりましたね。

うちのロケットストーブのレンガ積みも、あと残すところヒートライザ部分が5段です。ちと飽きてきて横に積んで段数稼ぎの手抜き(笑)。でも、まだ窓の造作が残ってます。多分寒くなる前に窓全開で火入れします。
仕上げに瀬戸漆喰でも塗ろうかと思ったんですが、めんどくさくてきっとくじけます。レンガでも吸湿するもんね。
8. Posted by ナオ   October 29, 2012 19:23
papaさん、うちの夫ケンがロケットストーブの記事に食いついていました。もっと前に知っていれば・・と唸っていましたよ。
うち、もう床張っちゃったから。。
9. Posted by papa   October 29, 2012 21:23
こんばんは、ヤナジさん。

こんなに記事が長くなる予定じゃなかったのですけど、
書いてみたら、ものすごい長い^^。

最初の画像、久しぶりに見ましたが、
もう、毎日悩んでばかりでしたっけ。
10. Posted by papa   October 29, 2012 21:33
テクテクさん、こんばんは。

ブログ拝見しました。
ものすごく、画像がキレイで。
嬉しかったです。

紹介して下さって、ありがとうございます。
次にいらっしゃるときまで、修行しておきますね^^。
11. Posted by papa   October 29, 2012 21:35
なんでも屋さん、こんばんは。

瀬戸漆喰を塗ると、耐火性能と耐久年数のふたつが、
大幅にアップすると思います。
長期的に使うなら、おすすめですが、
試作段階なら、いらないかなぁ^^。
12. Posted by papa   October 29, 2012 21:37
ナオさん、こんばんは。

>うち、もう床張っちゃったから

ケンさんなら、食いつくと思ってました^^。

あれね。
マンションの上層階で作っちゃってる人もいますよ。
13. Posted by nao   October 30, 2012 13:58
>マンションの上層階で作っちゃってる人もいますよ。

伝えたら激しく食いついてきましたが、
papaさん、意図的に釣りを楽しんでませんよね?(笑)
14. Posted by papa   October 30, 2012 20:32
>papaさん、意図的に釣りを楽しんでませんよね?

いやだな。
そんなわけ、ないじゃないですか。

じゃあ、いつ作りましょうかね。
必要なグラインダーのダイヤモンドカッターは、高いですから。
僕が貸してあげます。
15. Posted by なんでも屋   October 31, 2012 09:06
あ、あれ?呼ばれたかしら?

はい、マンションでロケットストーブ作製中の人です。
間もなく完成の予定です。

かみさんが製作途中のストーブを眺めていたので、おそるおそる「出来上がるの楽しみだろ?」って聞いたら、案に相違して「うん♪」だそうで。ほっ(爆)。

木造の床を剥がすのは簡単ですから(なのか?)、基礎を作ってください。ヒートライザー部分をレンガで積むと500キロぐらいにはなるはずです。

マンションの床は大丈夫なのだろうか?(核爆)
16. Posted by nao   October 31, 2012 12:56
papaさん>

朗報です。ダイヤモンドカッター相応の物は持っている様子です。
思いっきり釣ってますね、でもお気づきかと思いますが私も釣っている側なんです。

なんでも屋さん>

ブログ拝見しました。うちの夫ケンが見れる場所でそーっとなんでも屋さんのブログ開いておきます。

床外すのに問題があるとすれば店の完成予定が更に遅れるだけです。このパターンは免疫あるのでok!(okか?)
17. Posted by papa   October 31, 2012 21:00
なんでも屋さん、ありがとうございます。

(核爆)は困ります。核爆は。
18. Posted by papa   October 31, 2012 21:03
こんばんは、naoさん。
あれ、一般人の使うアイテムじゃないですよ。
お見それしました。

ただもんじゃないですね、やっぱり。

じゃあ、作るの手伝いに行きましょうか。
奈良か。
月より近いですね。

19. Posted by たま師匠   November 05, 2012 00:00
お、遅れてごめん...

その内にまた...追いつくから待ってってね!
20. Posted by Osakame   November 09, 2012 21:07
はじめまして。いつも楽しくみています。それがこうじてロケットストーブをただいま制作中です(^_^)ロケットストーブの本とここの設計図が大変役立っています。ありがとうございます!八ヶ岳にはよく行くので、近々寄らせて頂きます(^_^)
亀中心のブログやってますので覗いて見てくださいね。リンク貼らさせて頂きます。
21. Posted by papa   November 11, 2012 19:10
たま師匠、いつもありがとうございます。

見てくださるだけでも。
嬉しいのです。

連携、頑張らなくても大丈夫ですけど^^。
22. Posted by papa   November 11, 2012 19:20
Osakameさん、こんばんは。

ブログ、拝見いたしました。
僕のヒートライザーのトップは、ほんのわずかですが、
若干、ラッパ上に空間を空けています。
またヒートライザー内の燃焼室から煙道へのL字部分は、
出来るだけ角をなくして、カルマン渦の発生を抑制しています。

その2点が、ロケットストーブの出力に影響するかもしれません。

リンクありがとうございます。
今月中には、稼働させたいと思いますので、
えー、頑張ります^^。
23. Posted by Osakame   November 11, 2012 23:50
ありがとうございます!ラッパ状に手直し、L字の部分も角を耐熱セメントで滑らかにしました。で今日燃焼テストしてみました。質問があるんですが、なかなか燃えませんでした。そのためか排煙の量が多いように感じました。菅の長さは7mでほぼ一直線でそのまま壁を突き抜け排煙です。このブログを見ていたので燃焼する場所のU字溝は立てずに横置きです。木は燃えるには燃えるのですが引きが弱く火が消えてしまいます。何かアドバイスをいただけたら嬉しいです。
24. Posted by papa   November 12, 2012 01:11
ストーブを、しばらく使ってないと、
最初、火付きが悪いときはあります。

濡れた木を燃やすことも出来るのが、ロケットストーブですが、最初の火付けに使う木は、必ず良く乾いた細い薪である必要があります。

焚き付けの新聞紙は、2本必要です。
火吹き竹は、必須思います。
薪の表面にナタでささくれを作ると、火のまわりが良くなります。

あと。
オハナのストーブは、玄関口に設置してあります。

火付きが悪いときは、玄関を少し開けて、
空気の流れを作り、外気を入れてあげると、
燃えが良くなるようです。

参考にならないかもしれませんけど、すいません。
健闘を祈ります^^。
25. Posted by Osakame   November 12, 2012 20:38
ありがとうございます!参考にさせてもらいます(^_^)
地道に慣らし運転してみます。

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